『仮面ライダーフォーゼ』が最終回を迎えました。

座薬のような頭頂部 もとい、革新的なデザインで話題をさらい、
好評のうちに幕を閉じる事となったこの作品ですが、
先日の短評で解説した通り、背景には壮大なテーマが隠されています。

今回は、それをさらに詳しく見ていくと同時に、
『フォーゼ』が描いた宇宙の本質について纏めてみようと思います。

それでは、どうぞ。
 
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『仮面ライダーフォーゼ』は、1970年にノーベル物理学賞を受賞した
ハンネス・アルベーン博士の「プラズマ宇宙論」をベースにしていると思われます。

 ・磁場 = 階層(アメリカン・ヒエラルキー)
 ・重力 = 友情(対等な人間関係)


宇宙学では、言わずと知れた「ビッグバン理論」が主流です。
この理論は、これまた有名なアインシュタイン博士の相対性理論が背景にあり、
アインシュタインは宇宙定数を使って、重力によって揺れ動く星々が、
宇宙項(反重力)によって均衡が保たれる宇宙の姿を説明しました。

 G=κT-λg

※ Gは重力、κTが運動エネルギー、λgが反重力。

ところがこの定数、アインシュタインが考える定常的な宇宙の姿に従うべく、
帳尻合わせとして導入されたもので、実際の宇宙は膨張を続けている事が、
宇宙望遠鏡の名前にもなっているハッブル博士の観測によって明らかになりました。
アインシュタインは机上の空論だった宇宙項を後に撤回し、
「生涯における最大の失敗」だと述べています。

ところがところが、アインシュタインの死後に逆転ホームランが待っていました。
宇宙の膨張は右肩上がりの想定ではなく、重力によって弧を描くように減速し、
いつかは静止してしまう事が予想されていました。
これが、ハッブル望遠鏡で遠い宇宙の向こうの超新星を観測した結果、
減速どころかむしろ加速していた事が確認されたのです。

つまり、自らの重力におしつぶされるはずの宇宙が永遠に膨張し続ける為には、
重力に対抗する為の、より大きな反重力が必要な訳で、
アインシュタインの宇宙定数は、仮定としては正しかったと証明された事になります。

現在の宇宙論では、この力を暗黒エネルギー(ダークエネルギー)と呼んでいます。
何てったって世界中の天才科学者が束になっても解明出来なかった力です。
名前が中二病的でかっこよすなのはお察し下さい。


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プラズマ宇宙論は、物質を構成する原子の安定した姿から、
ボトムアップ的に宇宙の姿を説明した理論です。

原子は、陽子(+)を含んだ原子核の周りを電子(-)が飛び交う事で、
電気的に安定させ成り立っています。要するに磁石の力です。
ビッグバン理論では反重力的なエネルギーを謎としてきましたが、
プラズマ宇宙論では+と-の電磁作用で簡単に重力と反重力の関係を説明しました。


原子で構成される人間も+と-があり、お互いを重力で引っ張り合っているのですが、
『仮面ライダーフォーゼ』では、重力を"友情"に置き換えており、
重力から反重力に切り替えるアイテムとして"スイッチ"を象徴的に扱っています。


宇宙が今も膨張を続けているというのは、重力<反重力の状態だという事です。
『崖の上のポニョ』の考察で潮汐力の解説をした通り、
地球や月も例外ではなく、反重力によって月は地球から遠ざかっています。
これを希薄化する現代の人間関係に当てはめたのが『フォーゼ』のテーマです。

階層によって磁場が保たれている天ノ川学園において、ゾディアーツスイッチは
定常宇宙の力の源である、ダークエネルギーを呼び起こすものです。
ダークエネルギーは未知なる力。作中で描かれる"コズミックエナジー"とは、
人間関係を引き離す反重力のエネルギーであったと考えられます。
つまり、スイッチを押すと磁場が乱れ、人間関係が壊れていく。
学園理事長・我望光明の狙いは、"友情"という重力に縛られた人間を、
宇宙に輝く恒星のように、唯一の輝ける存在として進化させる事にあったのでしょう。

これに対し、フォーゼに変身する主人公・如月弦太朗の存在は、
リーゼントに短ラン姿と、明確に古き良き時代の人間である事が意識付けされており、
その他のブレザーを着たスマートな現代の若者達と対比させています。
「この学園の生徒全員と友達になる男だ」と連呼させる事で、
前時代的な特有の暑苦しさをベタに演出しているのも分かりますね。


フォーゼが使うアストロスイッチは、未知と言うより、既に制御されています。
ゾディアーツスイッチが反重力のエネルギーをそのまま取り込んだものだとしたら、
アストロスイッチはその力を制御しようとしたのではないでしょうか。
ゾディアーツになると人間は全てを反発し、最終的には我望のように孤立します。
反重力のエネルギーを行使したい我望にとっては、重力=友情など邪魔なだけです。
赤い目の輝きは、全ての人間関係を跳ね除けてきた非人間的な証なのでしょう。

アストロスイッチの開発者・歌星緑郎は、我望の親友でもありましたが、
我望と異なり、大地に根を下ろす事を望んでいたと思います。
反重力によって宇宙は膨張し、人間関係が疎遠になっていっても、
地球という星は、人間にとって帰るべき場所に違いありません。
歌星博士は重力に縛られた人間を愛していたのでしょう。

「ゾディアーツスイッチは人体への負担がかかる」という台詞は、物理的にも正しく、
人間は重力の束縛からムリヤリ離されると、様々な障害を起こします。
だからこそ宇宙に行く為の訓練を宇宙飛行士が積む訳ですが、
重力を友情に置き換えてみると、人間は1人では生きていけないという、
2つの意味に連なるメッセージである事が明らかになるのです。


ふ…深い。深すぎる。もはや子供番組じゃねーよ。


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歌星博士の息子・賢吾は、紆余曲折を経て友情を築いた弦太朗に、
変身出来ない自分の代替として、アストロスイッチとフォーゼドライバーを託します。

この賢吾くん、実は人間ではなく、体内にあったコアスイッチから生まれ出た
"コアチャイルド"なる存在であった事が判明します。
コアスイッチとは、20年前に我望と緑郎が月面で発見したもので、
宇宙から声を発していた宇宙の大いなる意志である"プレゼンター"が、
その声を受信出来る知的生命体と接触する為に、宇宙にばらまいたのだそうな。
コアスイッチを解析して得られた力がコズミックエナジーであるなら、
プレゼンターの意志とは、宇宙を膨張に向かわせるベクトルの事だと考えられます。

で、このコアスイッチ、やはり隠された意味があります。
『フォーゼ』がプラズマ宇宙論をベースにしていると定義した場合に限るのですが、
"コア"という言葉は、物質の最小単位の"原子核(コア)"を示すと推察されるのです。
原子論では、最小の物質である原子は、最小の宇宙であるともされています。


内的宇宙 外的宇宙

↑内的宇宙である原子と、外的宇宙である銀河系の比較。
 その姿形や、力学的バランスまで酷似している。



原子核は、陽子(+)と中性子で構成されています。
+と+が寄り集まれば反発し合い斥力が発生しますが、これを「核力」と呼ばれる
中性子の強い相互作用(+と-の電磁作用の102倍の引力)で原子核を安定させてます。
かの有名な湯川秀樹博士の中性子理論です。

プラズマ宇宙論は、宇宙に存在する正体不明のダークエネルギーについて、
磁場による相互作用であると説明し、重力に支配されたこれまでの定説を覆しました。
この理論はビッグバン理論を否定するもので、まだ主流ではないのですが、
人工的に発生させたプラズマが、銀河の構造のように渦巻きを描くなど、
実証的にも信憑性の高い理論として注目されている新説です。


コアスイッチは、コアチャイルドである賢吾の中にありました。
我望は外的宇宙から得たダークエネルギーで宇宙に出ようとしましたが、
コアチャイルドの原子核は、外的宇宙に匹敵するほどの力を既に内包していました。
すなわち、コアスイッチを原動力とした内的宇宙の形成です。
コアスイッチには、核力によって反重力を制御する力があると考えられます。
我望の力はビッグバン理論によるもので、賢吾の力はプラズマ宇宙論によるもの。
『フォーゼ』で描かれる戦いは、対立する2つの理論の戦いでもあるのです。


賢吾は宇宙に旅立つ指名を持って弦太朗達に別れを告げますが、
弦太朗の発した重力と、賢吾の中の重力が引かれ合い、
地球を帰るべき場所として、賢吾は弦太朗のもとに戻ってきます。

外的宇宙である銀河の果てから送られてきたプレゼンターの意志が、
内的宇宙であるコアとなって賢吾の体内で働いているのは、
宇宙学の観点から見ても大変に面白い解釈で、
このストーリーを考えた中島かずきという人は、宇宙学に関する
何らかの知識を持って脚本制作に当たったと見て間違いありません。


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我望が支持するゾディアーツスイッチによる宇宙進出を否定した賢吾は、
アストロスイッチで宇宙の反重力的なエネルギーを制御し、
フォーゼシステムによってその力を行使して、宇宙へと旅立とうとしました。

人間は重力から解き放たれれば、簡単に宇宙へ行けます。
それを否定してしまえば、別の方策を講じなければなりません。
ではその方策とは何か?それは、賢吾が支持したフォーゼシステムが
何を象徴しているかを考えれば、自ずと答えが出てきます。

フォーゼのデザインは宇宙服をモデルにしているそうです。
嘘だろ?あの座薬がか? 確かに宇宙を意識したスタイルですね。
フォーゼシステムは単身で宇宙まで飛んで行く事が出来ます。
フォーゼが宇宙に出る時は、愛車のマシンマッシグラーを使うか、
コズミックステイツにチェンジしてロケットを使っています。
要するにフォーゼシステムは、ゾディアーツスイッチ=反重力に頼らずに、
宇宙に進出する事を目的としていたと想定されるのです。

宇宙への進出は、人類開闢から連綿と受け継がれてきた夢でもあります。
宇宙服をモデルにしたフォーゼは、明日を夢見る子供達を
果てしない宇宙へと導いてくれる、宇宙船のような存在なのかも知れません。
『宇宙兄弟』では、宇宙服の事を「最小の宇宙船」だと紹介する台詞がありますが、
フォーゼの宇宙服スタイルもやはり"宇宙船"を表していたと考えられます。


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「内的宇宙」という言葉を最初に使ったのは、J.G.バラードというイギリスの作家です。
彼はこう言います。「人間が目指すべきは、外的宇宙ではなく内的宇宙だ」と。
作品の背景にある壮大なテーマや、フォーゼの象徴化に見られるのは、
中島かずき氏の内的宇宙だと言っていいと思います。
『仮面ライダーフォーゼ』は、原子の仕組みを作中に落とし込む事で、
バラードが目指した深遠な内的宇宙を見事に表現したのです。

弦太朗と賢吾は、最後に自力で宇宙へ行く事を誓い合いました。
『フォーゼ』が描こうとした宇宙の本質は、重力と反重力が拮抗した、
定常的な人間関係、つまり、変わらない友情であったと思います。


この1年間、私達を宇宙への夢へと誘ってくれたのは間違いなく、
ダサかっこいい座薬ちゃん フォーゼの戦う姿でした。