「世紀末オカルト学院」二次創作SS

第6話「文明の道程」時点でのネタバレを含みます。

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 ぼくはスプーンが曲げられる。
 両手を使ってとか、指で押し曲げるとか、そういう事じゃない。ぼくは超能力を使って、スプーンを曲げられるんだ。
 この力を始めて見つけたのは、ぼくのお母さんだった。ぼくがスプーンを曲げてみせると、お母さんはとてもびっくりして、そして喜んでくれた。ぼくはそれがとても嬉しかった。
 お母さんがテレビ局に手紙を出すと、ぼくはたちまちテレビに引っ張りだこになった。世間のみんなも、ぼくのスプーン曲げに驚き、喜んでくれた。世間のみんなは、ぼくの名前を別の読み方をして「ブンメーくん」と呼んだ。ぼくはブンメーくんと言われるたびに、「ぼくの名前はふみあきです」と言うんだけど、誰も聞いてくれない。
 でもいいんだ。お母さんだけは、変わらず「ふみあき」と呼んでくれるから。
 ぼくは学校が終わるとすぐにテレビの収録があって、とても忙しい毎日を送っていたけど、でも苦しくないんだ。収録現場にはお母さんが必ず迎えに来てくれて、収録で僕が一番嬉しい瞬間は、この時。良く分からない女の人達にかわいいって言われるより、お母さんが手を振ってくれる方が、ぼくに元気を与えてくれる。お母さんが喜んでくれるから、僕は頑張ってテレビに出られるんだ。
 家に帰って、その日の晩ご飯がぼくの大好きなカレーライスだと、ぼくはとても嬉しい。お母さんのカレーライスはとても美味しいんだよ。
 それでも、少し寂しいと思う時はある。
 今日はクラスの友達が、天体観測に誘ってくれた。そういえば今日は、流星群があるんだった。でもぼくは収録がある。お仕事だから仕方ない。お母さんが迎えに来ているし、友達と遊ぶのはまた今度にしよう。
 その車の中で、お母さんに、「あなたは特別な子なんだから、あんな子たちともう遊んじゃ駄目」って言われた。ぼくは友達と遊びたかったから、すぐに返事が出来なかった。でもお母さんが念を押してきたから、頷かないといけない。お母さんの言う事だから、しょうがないよね。
 流星群を見に行けなかった代わりに、お母さんがプラネタリウムに連れて行ってくれるって約束してくれた! やった、とても楽しみ! ぼくはお母さんに買ってもらった星の本を読んでいっぱい勉強した。プラネタリウムに行く前に、星の名前を覚えておかなきゃ。
 そんな時、お仕事の電話がかかってきた。お母さんが話しているのを聞くと、どうやらプラネタリウムに行く日に入るみたい。でも残念、その日はプラネタリウムだから、お仕事は出来ないよ。
 でもお母さんは、その日は空いています、ってテレビ局の人に言っちゃった。
「お母さん、その日は、」
 もしかしたら約束を忘れちゃったのかと思って、ぼくはお母さんに問いかけた。でも電話中だからか、返事してくれない。
「ねぇお母さん、」
「文明いい加減にしなさい!」
 そう言ってお母さんは、ぼくの頬を打った。ああ、お母さんを怒らせてしまった。電話中に話しかけたり、お仕事をサボろうとしたりしたから、悪い子だと思われたんだ。とても痛いけど、なんだか頬だけじゃなくて胸まで痛いけど、我慢しなくちゃいけない。
 でも、お母さん――
 ぼく、プラネタリウム行きたいよ。


 それからぼくは、スプーンが曲げられなくなった。
 ぼくが今まで曲げて見せたものも、世間は「イカサマであった」と考えるようになって、ぼくがテレビに出る事はなくなった。
 しょうがないよね。
 ぼくはブンメーくんじゃないんだもん。